くまの気持ち

ポケモンのこととか書きます

ポケモンの技名に見る動詞の名詞化についての考察

1.はじめに

 いつかの活動で「ふきとばし」を「ふきとばす」と言う後輩を見て(「ほえる」は「ほえる」なのに、なんで「ふきとばし」は「ふきとばす」じゃないんだろう)と思ったのを、突然思い出しました。

 それっぽい答えを探してツイートしようと思って他の技を見ていたらある仮説が立ちました。

 「複合動詞は名詞化する傾向にあるのではないか」

 複合動詞とは簡単に言うと「複数の語が結合してできた動詞」のことです。「ふきとばす」は「ふく」+「とばす」からなる複合動詞です。

 しかしすぐに反例が現れました。「やきつくす」です。「やく」+「つくす」からなる複合動詞ですが、「やきつくし」というように名詞化していません。

 それっぽい答えがすぐには得られそうになかったので全数調査してブログを書くことにしました。

 長くなるので適宜読み飛ばしてください。以下常態。

 

2.調査方法

 ポケモンの技675件から「動詞」、「名詞化している動詞」を抽出し、分類・分析を行う。

 分類は自作した以下のフローチャートを利用する。

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分類フローチャート

3.調査結果

 分類の結果をまとめた表を以下に示す。

A B C D E F G H I J K
あばれる あなをほる うちおとす かたくなる いかり おいわい さしおさえ のしかかり おんがえし いわおとし じごくづき
あまえる いとをはく かぎわける ちいさくなる うらみ おしゃべり すりかえ ふきとばし しおふき いわくだき どくづき
おだてる からをやぶる かみくだく まるくなる のろい おまじない なりきり ふみつけ スプーンまげ かいふくふうじ にどげり
かくばる しっぽをふる かみつく なかよくする     みきり みだれづき つめとぎ かげぬい へびにらみ
ころがる そらをとぶ からみつく         みだれひっかき どろあそび かぜおこし  
さわぐ ちからをすいとる きりさく           なみのり きあいだめ  
とける つぼをつく しぼりとる           はねやすめ きりばらい  
なまける てをつなぐ しめつける           みずあそび くさむすび  
ねむる とぐろをまく じゃれつく             すなあつめ  
はねる ねをはる すいとる             すなかけ  
ほえる ゆびをふる たたきつける             タマゴうみ  
うたう からではさむ つけあがる             たまなげ  
おどろかす したでなめる とぎすます             つららおとし  
くすぐる つのでつく とびかかる             どろかけ  
こらえる つばさでうつ とびはねる             なかまづくり  
たがやす からにこもる なげつける             ミルクのみ  
たくわえる   にぎりつぶす                
ついばむ   にらみつける                
つつく   のみこむ                
はさむ   はきだす                
はたく   はたきおとす                
ひっかく   ふるいたてる                
ひっくりかえす   まきつく                
ほしがる   まとわりつく                
まもる   みやぶる                
    もえつきる                
    やきつくす                

 

4.用例分析

4-1.A(これ以上分解できない動詞)とE(これ以上分解できない動詞の名詞化)

 上の表の「ほえる」より上は自動詞、「うたう」からは他動詞である。

 Aを名詞化すると五段活用動詞は違和感なく名詞化できるものもある。(「くすぐり」、「ついばみ」、「ひっかき」など)

 「おどろかし」「たがやし」「ひっくりかえし」などは語感の問題か、違和感を覚える。

 一方、一段活用動詞は名詞化して一語で使うことに違和感がある。(「あばれ」、「とけ」、「ほえ」など)

 また、一部、動詞の名詞化と同音の名詞が存在し、それらは名詞化できない。(「さわぎ」、「はさみ」、「たくわえ」、「ほしがり」など)

 「なまける」、「ねむる」は名詞化すると同一ゲーム内の別の用語と同名になるため名詞化は出来ない。

 Hを動詞に戻すと「いかる」は自動詞、「うらむ」、「のろう」は他動詞で全て五段活用である。

 「のろい」は「呪い」と「鈍い」を掛けているため動詞にもどすことはできない。

 

4-2.B(助詞を伴う動詞)とI、J(助詞を補って動詞に戻せる名詞化した動詞)

 Bを名詞化する際に助詞を省略すると「を」の多くは省略できる。(「あなほり」、「いとはき」、「ゆびふり」)

 一部は語呂の問題か違和感を覚える。(「そらとび」、「ちからすいとり」、「ねはり」)

 「で」は省略すると「で」なのか「を」なのかの区別がつかなくなる。(「からばさみ」、「したなめ」、「つばさうち」)

 「に」は自動詞なため「を」を取らないので省略しても問題はない。(「からこもり」)

 IとJの区別はポケモンをやっていない友人へのヒアリングを元に判断した。

 Iを動詞に戻すと「なみのり」は「に」、「どろあそび」「みずあそび」は「で」、それ以外は他動詞なので「を」を補うことができる。この項目には「みねうち」や「しっぺがえし」なども入る可能性があるがあまりに名詞性が強いので今回は除外した。

 Jは全て「を」を補って動詞に戻すことが出来る。

 

4-3.C(複合動詞)とG、H(名詞化した複合動詞)

 Cの全ては名詞化が可能である。「はたきおとす」のみ造語である。

 Gも全て動詞に戻すことが可能である。「さしおさえる」「すりかえる」は一段活用動詞だが名詞化されている。

 Hは「みだれづき」「みだれひっかき」を除いて動詞に戻すことが可能である。この二つは造語であるため違和感があるのかもしれない。

 

4-4.D(~なる、~する)

 全て名詞化はできない。

 

4-5.F(丁寧の「お」を含む名詞化した動詞)

 全て「お」を外して動詞に戻すことが出来る。

 また、「いわう」「しゃべる」は「お」を補わなければ名詞化できない。

 

4-6.K(その他)

 全て造語であり、そのまま動詞に戻すことはできない。

 「どくづき」は「で」を補って動詞化できると考えればJに分類されるがJは全て「を」を補うことと対立する。

 「じごくづき」を「地獄のように突くこと」と捉えると動詞化は「じごくのようにつく」になる。

 「にどげり」は「二度蹴ること」なので動詞化するとしたら「にどける」になるか。

 「へびにらみ」は「蛇に睨まれた蛙」から来ているので動詞化するとすれば「へびのようににらむ」になる。

 

5.考察

・五段活用動詞は名詞化しやすいが、活用語尾がサ行のものは名詞化しづらい。

・一段活用動詞は名詞化しづらい。

・「SをV」という形を名詞化するのはやや抵抗があるが、名詞化されたものを「SをV」に戻すことに抵抗はない。

・複合動詞は名詞化しやすい。

・名詞化する際に丁寧の「お」を伴うものがある。

ポケモンの造語がそこそこの数ある。

 

6.終わりに

 「ふきとばし」が「ふきとばし」である必然性はわからなかったが最初の仮説「複合動詞は名詞化する傾向にあるのではないか」は正しかったので良かった。

 機会があれば今度は攻撃技か変化技かという視点からも考察したい。また、「かいりき」という技に対する疑問が浮かんだのでそれについれも考えたい。

 分類フローチャートを書いているときに卒論みたいだなと思ったが用例が少ないので卒論には厳しそうである。というか真面目に卒論進めないとなという感じである。