「的を射る」と「的を得る」のように、あるいは「見られる」「見れる」のように言葉は誤用を元にその形態を変化させていく。この時代に今さら「ら」抜き言葉を目ざとく指摘する人も少ないだろう。
今まさにこのような変化が起こりつつあるのではないだろうかと思う言葉を見つけたので、少し調べてみた。
「昨日ぶり」と「一日ぶり」である。
昨日会った友人に今日も会ったというシチュエーションで、あなたはきっとこう言うだろう。
「お、昨日ぶりだね!」
言わないだろうか。私も「昨日ぶり」という表現には違和感を覚える。本当にそんな人いるのかと思い、ツイッターで「昨日ぶり」を検索したら大量にヒットした。一般的に使われている表現らしい。
しかし、それを言うなら「一日ぶり」がふさわしいのではないだろうか。「~ぶり」という表現は「一ヶ月ぶり」「十年ぶり」のように時間を表す語に付くものである。デジタル大辞泉にもこう書いてある。
時間を表す語に付いて、再び同じ状態が現れるまでに、それだけの時間が経過した意を表す。「十年振りに日本の土を踏む」「しばらく振りに映画を見た」
「昨日」とは「今日の前の日」を示す語であって時間を表す語ではない。やはり「一日ぶり」の方が良さそうである。
しかし、ここでまた別の疑問が浮かんだ。「一日ぶり」は再び同じ状態が現れるまでに何日経過したことを表すのか、ということである。つまり「一日ぶり」は「昨日起こったことが今日もあった」を表すのか、それとも「一昨日起こったことが今日もあった」を表すのかということである。
日本語話者の感覚を知るためにツイッターのアンケート機能を使ってみた。結果は以下の通りである。
一日ぶり
— くまー@小論、餅つきは3/24 (@winteroranges) 2019年2月5日
母数は少ないが、なんと一日ぶりの意味が半々に別れたのである。
「○日ぶり」という表現についてNHK放送文化研究所がこうまとめている。
質問 まもなく「夏の甲子園(全国高校野球選手権大会)」が開幕しますが、出場校を紹介する際などに、よく「○年ぶり○回目の出場」という言い方をします。こうした「~ぶり」の使い方や数え方について教えてください。
回答 接尾語の「~ぶり」は、一般的に時日(じじつ)がたって、その前の状態が再び起こるときに使われます。 また、その場合の時間や日にちはすべて満の数え方をします。
解説
「~ぶり」(○年~、○日~)は、「久しぶり」という言葉もあるように、ある程度の時間・日にちがたったあと、ようやくその前の状態が再び起こるときに使われるのが普通です
(例1)「5年ぶりの再開」「5日ぶりの晴天」「1か月ぶりの雨」
また、期待感がある場合や実現するまでに相当の努力が払われ、しかもそのことが起こるまでに心理的に長い時間の経過がある場合には、必ずしもその状態が再 現されなくても使う場合があります。
(例2)「着工以来、15年ぶりに開通」
<注意>「~ぶり」には、語感の中に「待ち望んでいることへの期待感」を含んでいるので、「○年ぶりの大病」などという言い方は普通しません。
[数え方]
「○時間ぶり」「○日ぶり」「○か月ぶり」「○年ぶり」などは、すべて満の数え方をします。
(例1)平成10年に初優勝したあと、ことし(平成13年)再び優勝した場合、
「3年ぶり2回目の優勝」。
満の数え方で、(平成)13-10で3年と計算します。
(例2)ある事件が10日に発生して20日に解決した場合は、
「事件は10日ぶりに解決」。(20-10=10日ぶり)
(例3)鉄道事故が17日に起きて20日に列車の運転が再開されたときは、
「3日ぶりに運転再開(復旧)」。(20-17=3日ぶり)
例に沿って考えると昨日(6日)に起こったことが今日(7日)にも起こった場合、7-6で「一日ぶり」ということになる。
つまり昨日会った友人に今日も会ったというシチュエーションで、あなたはこう言うのだ。
「お、一日ぶりだね!」
まあ、ほとんどの人が「昨日ぶり」を使ってるのでもはや「昨日ぶり」が正しいのかもしれない。
そもそも「~ぶり」という表現が「ある程度の時間・日にちがたったあと、ようやくその前の状態が再び起こるときに使われるのが普通」とあるので昨日起こったことが今日もあったことを「~ぶり」で表現するのがおかしいのかもしれない。
わからないことだらけである。